泣いて、泣いて、泣いた。
いつの間にか空が白くなって、明るくなって、東の地平線から真っ赤な太陽が顔を出した。
結局、イチルも俺も一睡もしなかった。だが、次に何をするべきか、どう進むべきか分かったから不思議と落ち着きを取り戻した。
イチルの言う通りだ。
全てを救うことは不可能だ。
始まりがあるならば終わりが存在する。命を持つものには平等に死が訪れる。それは自然の理であり、俺にもどうしようもない。俺は全知全能の神じゃないし、死んだものを甦らせる力もない。
仕方ない。その一言で諦めるべきだ。
全てを救えると自惚れていたわけじゃない。ただ、目の前の存在くらいは、と思っていた。実際に俺にはヒッポグリフの運命を変えるチャンスがあった。だが、俺は掴めなかった。
悲しいし、悔しいし、…自分自身が憎い。
だが、どれだけ落ち込んたとしても、あのヒッポグリフは戻ってこない。
だから、前に進むことにした。
両手で水を掬っているのだとすれば、俺は指の隙間から溢れてしまった水滴を追うのではなく、残っている水がこれ以上溢れてしまわないようにきつく指を閉じるべきだ。
彼のことを忘れないと断言する。それでも、前に進まなければ被害は広がるだけだ。
綺麗事かもしれない。理想を語っているかもしれない。…だが、綺麗事さえ形にできない奴に、理想の一つも語れない奴に、果たしてこの厳しい現実に向き合う勇気なんてあるんだろうか。
俺は立派な王じゃない。力だって上手く使えない。分かっているんだ。…分かっているからこそ、救えるものを必死に救うんだ。
誓う。
この悲劇に終止符を打つ。
世界を守ろうとしたノクトの魂にひどい仕打ちをしてしまうかもしれない。
だが、どちらかが犠牲となる現実で、聖獣達ではなく命をかけて世界を守った賢王を迷わず生贄に選ぶ俺は、血も涙もないのかもしれない。
ノクトの魂を再度封印する。…たとえ、かつて誰よりも慈悲深く、誰よりも人と聖獣を愛した王の魂が永遠の孤独にさまよおうとも。
[ 204/656 ]
prev /
next
[
mokuji /
bookmark /
main /
top ]
王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。