「泣きたかったら泣けばいい」
「ぅっ、あ…!」
「思いっきり泣け」
引き金となるような言葉だった。イチルには見せたくなかったのに、いや、既に泣いているからせめてこれ以上ひどくしたくなかったのに、優しい声に箍が外れたように一気に涙が溢れてしまった。
頬を伝って、イチルの肩口を濡らす。嗚咽で息が震えてしまって、イチルのコートを握る指先がカタカタと震えてとまらない。
「助けたかった、のに…っ!!」
イチルは何も言わない。
ただ黙ってきつく抱き締めていた。
「優しくて、っ、んっく、…いい子で、今も、…生きてたはずなのに…!ぁ、ああ!!」
心に溜めていたものを吐き出す。泣き喚いたからって現状が変わるわけじゃない。なのに、とめられなくて、自分でも何を言っているのか分からなくて頭がぐちゃぐちゃになった。
抱き締めてくれている腕に必死にすがりつけば、腕に力が込められる。俺を責めもしなければ、安い言葉で慰めようともしない存在が心地よかった。
「俺の、ッ、せい…んぅ、」
イチルは最後まで何も言わなかった。
だが、俺のせいで、と言う度に唇を重ねられた。キスと呼ぶには軽い接触だったが、言葉を奪うには充分すぎていて、どう泣き喚こうとこの言葉だけは許さないと言っているようだった。
何度も何度も触れるだけのキスを落とされる。言葉はなかった。だが、イチルが悲しみを分け合おうとしていることは痛いほど分かった。
「イチル…、っ、誓うよ。俺は、必ず、…必ずノクトをもう一度封印する」
「俺達、な」
悲劇は繰り返される。
禍の根を絶たない限り、何度でも。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。