爪が剥がれそうなほど強く爪を立てた。
俺の爪が剥がれたところで大切な友人は戻ってこないのに、そうしないとやり場のない悔しさと悲しみでどうにかなってしまいそうだった。
爪はもう白くなって痛みを訴える。だが、それ以上に心が痛かった。引き裂かれそうだ。
「……ッ、」
ギリ、と奥歯を噛み締める。
だが、その瞬間、誰かの手が重ねられた。
俺の手に重ねられたその手は硬い男の手だったのに、とても暖かかった。節くれだった長い指。決して繊細とは言えない手はそっと重ねると、ぎゅっと強い力で俺の手を握った。
「イ、チル?」
前にしゃがんでいる人はイチルで間違いないのに、滲んだ視界ではよく見えない。
泣き顔を見られなくて慌てて俯く。だが、グッと手首を引っ張られてイチルの胸に飛び込んだ直後、きつく痛いほど強く抱き締められた。
肩口に頭を緩く押さえられる。
「一人で泣くんじゃねぇよ」
ゆっくりと背中を撫でてくれる手。
「なんでも一人で解決しようとしすぎじゃねぇの?なんのための仲間で、なんのための契約だ。…俺達には散々頼らせておいて、お前はたった一人で重荷を背負うつもりか、馬鹿」
淡々とした口調。だが、そこから伝わってきた感情は暖かくて、思わず震える指でイチルのコートを掴んだ。反論しなかった。反論できる言葉さえ、見付からなかったんだ。
トン、トン、と優しく背中を叩かれる。それがきっかけとなるように嗚咽が出た。
「王って言っても全知全能じゃねぇんだろ。どう足掻いても助けられねぇ命もある。それでもお前は諦めずに、前に進もうとしてんだろ?」
「っ、イチル、」
「お前はよくやってる。…だが、もっと俺を頼れ。お前一人に全てを背負わせるつもりはねぇ」
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。