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3.


(ヒッポグリフ…)

名前すら知らなかった。

いつか信頼できる人が現れて、契約するんだと思っていた。俺がイチルにしたように自分の名前を教えて、次に会った時にでも嬉しそうに紹介してくれるかもしれないと思っていた。

なのに、待っていたのはこの結果で…。

ケルベロスは誰も悪くないと言った。なら、何も悪くないヒッポグリフは、どうしてこんな仕打ちをされたんだろうか。

今でも鮮明に思い出せる。

王様、と親しみを込めて呼んでくれた声。家に帰りたい、と言った時の表情。一緒に眠る時はいつも翼で俺を覆って暖かくしてくれて、小さなことでよく笑う元気な友人だった。

彼の死だけを悼むのは身内贔屓だ。魔獣に会わなかった今までどこか他人事だったのに、友人が死んだ途端に悲しむ俺は王に相応しい器じゃない。

もし、今夜彼が助かっていたなら俺は喜んでいただろう。…他の魔獣が死んだとしても。

(さいってーな王様だよね、ほんと)

彼を救ったところで他の犠牲は出ている。

だが、

(目の前で苦しんでいる子すら助けられなくて、殺しちゃってッ…!)

広い氷山の一角。何百、何千のうちの一つ。だが、その一つすら救えなかった俺はなんて無力で、なんて不甲斐ないんだろう。

悲劇は悲しみしか残さない。だが、そう分かっていても何もできない自分が心底嫌いだった。

ぽた、ぽた、といくつもの涙が頬から落ちて、土が色を濃くしていく。引きつった喉から溢れた嗚咽は情けなく空気を揺らしただけだった。

全ては生き物は最期がある。その理は知っている。だが、今も幸せに生きているはずだった命が理不尽に奪われていく様子には、どうしても耐えられなくて悔しかった。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。