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9.


「なんか魔法使ってみてよ」

「そんなさらっと言われても…、」

「ホーリエ、魔法教えてやって」

「こう、ふんぬぅ!って感じでパァーっと」

「…だって。ほら、」

硬直したままのイチルが訳の分からなさそうな目でホーリエを見た。だが、ホーリエは感覚で魔法を使っているらしく、きょとんとしている。

「いや、兄さん、分からねぇだろ。とりあえず、とりゃああ!ってやってみろ」

『アドバイスになってませんよ、それ』

苦々しく笑ったのはシルフだった。

イチルの隣に移動すると、見えるように両手をかざす。すると、そっと何かを包むような手の中心に風が現れた。小さくてもひゅうひゅうという風本来の唸り声を持ち、通った後は僅かに淡い緑色を残しながら素早く、鋭く駆け回る。

不思議なことに、そこには風が存在がいたのに部屋のカーテンが揺れることも、ましてやシルフの長い髪が靡くこともなかった。

両手の間にだけ風が存在していたんだ。

『よろしいですか、イチル様。…属性が分からないうちは無闇に技を使おうとはせず、魔力を具現化させてください』

「具現化?」

『えぇ。体の中から引き出し、あなたの意志で形を与えるのです。形を指定する必要はありません。そうすればあなたの魔力は、属性本来の形となって現れるでしょう』

パチ、とシルフは両手の手の平を拍手をするように合わせた。その時にはもう小さな範囲のみで駆け回っていた風は消えていた。

それを見てイチルが手の平をかざしてみる。今まで一度も魔法を使ったことがないんだから、戸惑っているんだろう。だが、それでも、イチルは真面目な表情で手の平を睨み続けた。

そして、ついに、

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。