だから、一か八か唇に噛み付いてやった。
「ん、ぅ!?」
至近距離でイチルの目が大きく見開かれる。抵抗されると面倒だから、肩に手を置いて押さえつけながら後頭部を固定したが、驚きで体を動かせないのか、暴れられはしなかった。
周囲からいくつもの息を呑む音が聞こえたが、目を閉じてキスに集中する。
歯列を割って、より深く中へと入れる角度を探しながら奥へ奥へと侵入する。ちゃっかり舌を絡めて、俺の口の中へと入ってこようとしていたが、軽く噛んでやると大人しくなった。
それにしても柔らかくて、…気持ちいい。
(いや、そうじゃなくて、)
キスしたいからキスしたわけじゃない。
こっちの方が魔力量を測りやすいのだ。
普通なら触れると分かるが、キスで体の中へと入る分さらに探りやすくなる。
目を閉じて集中する。体の奥から漂ってくるほんの僅かな魔力を追う。糸のような細いそれはキラキラとした白色で、全体量は、
(あれ?分からない?)
あるのはあるのに、何度集中しても全体量が分からない。しばらく努力していたものの、やはり成果はなくて仕方なく唇を離した。途端に、唾液が俺とイチルの口を結ぶ糸になる。
「タ、タク?」
「イチル、魔力があったよ」
「は、はぁ!?そんなわけ、…というより、お前、いちいちキスして魔力量を探んのかよ!?」
「あるよ。間違いなく。たぶん風属性じゃない。…いや、普通は触れれば簡単に分かるんだけど、イチルの場合は分からなくて、」
「だからって!…他の奴にはすんじゃねぇぞ?」
ものすごく不機嫌な顔をされてしまった。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。