「あのさぁ、モチヅキ」
一通りイチルに噛み付いて落ち着いた頃、はにかみながらホーリエが言った。
タクという名前はイチルにしか呼べないから、今まで通りモチヅキで呼ぶことにしたらしい。既にモチヅキは家名だと教えてある。
モチヅキと呼ばれた瞬間、ちょっとだけイチルが嬉しそうに頬を緩めて、背中に回していた腕に力が入ったのを感じた。
「ん?」
「…触らせてくれたりしない?ちょっとだけでいいから、もふもふなでなでしたい」
「……え?」
「ダメ?」
人間の姿を撫でたい趣味はきっとないんだろう。ということは鳥の姿だ。
オーツェルドが嫉妬しないかと一瞬見たが、彼も無言で隻眼をキラキラさせている。何よりもマーメイドとシルフがワクワクと期待した眼差しで見るから、ここで応えないのは男じゃない。
美人さんにはなでなでされたい。
「もちろんいいよ」
下心をグッと抑えて、人が良さそうに笑った。
小鳥の姿でもよかったが、俺はかっこいい大きな鳥の姿の方も気に入っていて、それに姿を変えて飛ぶ。舌打ちと共にイチルに捕まりそうになったが、かわしてホーリエの膝に着地した。
撫でて撫でて、と腹を晒して寝転がると目を輝かせたホーリエが首とか腹とかを撫でてくれる。カルナダ様には及ばないが、気持ちいい。
「こらぁ鳳凰だよなぁ?」
オーツェルドが小さく呟いた。
『鳳凰?』
「間違いないだろうね」
そう言われて、俺はまだきちんと自分の姿を見ていないのを思い出した。この姿は首が長いから自分の姿を見やすい。確かに元いた世界の鳳凰と呼ばれる瑞鳥そのものだった。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。