「というわけなんだよ」
不思議だった。
人生のほとんどを人間としてすごし、家族の庇護の下で生きていたのに、突然何も分からない世界に放り出され、体も変わってしまったし、俺の意志に関わらずたくさんの命を背負っている。
それでも怖いと感じなかったのはたくさんの人に助けられて、頼れる仲間達に出会えて、シルフやあのヒッポグリフのように俺を信じ、慕い、必要としてくれる存在がいると知ったからだ。
俺は一人じゃない。
俺を必要としてくれる存在がいる。
そう分かるだけで恐怖なんてものは消えた。ただ前を向かなきゃ、と思った。
「…そうか」
イチルはそう呟いただけだった。
質問がなかったわけじゃないと思う。だが、よくやった、とでも言いたげに俺の背中を撫でる手は、無理をさせたくない、とも言っていた。
「俺さ、イチルと契約してよかったよ」
ピクリ、とイチルの手が震えた。
「イチルじゃないと契約しなかった。…まだまだひよっこな俺だけど、契約は解除しないよ?」
「ふっ。ばっかじゃねぇの?お前がひよっこなのは分かりきってんだよ。王だからといって俺が簡単に守らせてやると思うなよ?」
「はっ!?ちょっとくらい敬わないの!?」
「お前相手に?ハッ、」
本当に心配はしていなかった。正体を明かすことでイチルが態度を変えて余所余所しくなったり、媚びを売ってきたりなんてありえない。
だが、期待通りの飾らない言葉は心地よくて、また俺の気分を軽くしてくれた。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。