「俺は確かに風の王で間違いない。…だけど、最初から王っていうわけじゃなくて、…いや、最初は聖獣ですらなくて人間だったんだ」
一度イチルに目を合わせて、そして、ホーリエとオーツェルドとマーメイドにも、じっと口を挟まずに聞いているシルフにも視線を合わせてから、ゆっくりと口を開いた。
「だけど、俺がいたのはこの世界じゃない」
小さく息を呑む音がした。
だが、話を切ろうとする人はいなかった。
「風にこの世界に連れてこられたの」
俺は嘘を交えずに本当の話をした。
他の世界に住んでいたこと。昔から風に関する不思議な現象が起きていたこと。だが、あちらの世界には魔法も聖獣もなくて、その現象は他の人間にとっては異常なものだったこと。
家族に関する話は伏せた。血が繋がっていない、だなんて話す必要がなかった。
そして、この世界に来たこと。
風に意志があり、風が俺を連れてきたこと。
人間の姿だったのに小鳥になっていて、戻れないし飛べなかったこと。聖獣になった理由については今でも分からないこと。
イチルと共に城を出たものの途中で人間の姿に戻って、だが、小鳥には戻れず、説明もできなかったから情報屋を装ってパーティーに加わったこと。本当は金貨が目的じゃないこと。
今は自由自在に姿を変えられること。
王になってから日も浅いから力のコントロールも上手いとは言えないし、千年前の話どころかこの世界の常識すら詳しくないこと。
それでもイチルの契約聖獣として、多くの聖獣を持つ属性の王としてこの旅を続けなければならないこと。聖獣を助けなければならないこと。
伏せた話はあった。だが、嘘はなくて、ずっと仲間を騙していたと思っていた罪悪感が、胸につっかえていた石が、ストン、と落ちて気が楽になっていったような気がした。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。