果たしてイチルが何を持っているのか。
ケルベロスの言う厄介なものとは何なのか。
それだけのヒントしか与えられなかった俺はどれだけ考えても分からず、不安ばかりが残った。
だが、幸いにもケルベロスの口調からして解決を急がなければならないものではないらしいし、光の女王に会えという手掛かりも残してくれた。
(…とりあえず、今は目先のことだ)
俺のことを説明しないと。
ケルベロスが消えても、立場上俺に気をつかってか誰も口を開かないのだ。気軽に話していいのに、と苦笑い混じりの溜め息を吐けば、何を勘違いしたのか、ホーリエの肩が小さく跳ねた。
「ごめん、怒ってるとかじゃないんだ」
「い、いえ、僕こそ無礼を…、風の始祖様。疑ったりしてごめんなさい…」
「普通にしてよ、ホーリエ。ここにいる皆とは対等な仲間だから敬語を使わないで。…それに疑うのは当たり前だよ。俺も怪しかったと思うし、それだけ仲間思いってことだから」
ホーリエの表情が少し強張っていたが、譲らずにいるとついに折れてくれた。仕方なさそうな笑みはホーリエが気を許した相手にだけ向けるもので、思わず嬉しくなった。
ホーリエは頭の硬いところがある。だが、俺は心の底から彼に感謝していた。
俺達の旅についてきて力を貸してくれることも、初めは俺を警戒したことも、彼は根は責任感があって真面目だという証拠だ。もちろん、それはオーツェルドもだった。
「ちょっと遅れちゃったけど、一緒に旅してくれてありがとう。本当に助かるよ」
そう言えば、ホーリエとオーツェルドの表情がふわりと柔らかく綻んだ。
そして、俺は意を決して振り返った。おそらく誰よりも俺に聞きたいことがあるイチルへと。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。