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11.


「教えてくれてありがとう、ケルベロス」

「礼には遠く及ばぬ」

「…あと、ひどいこと言ってごめん」

「貴殿の言葉に間違いなどなかったよ」

目尻を下げて、彼は柔らかく笑った。

その微笑みは本当に穏やかで、安寧の闇という言葉に相応しい穏やかさがあった。

ポン、と肩に手を置かれる。その手の暖かさは全ての希望を俺に預けるようでいて、なのに、その力強さはいざとなったら助けに行くと言外に言ってくれているようだった。

「武運あれ」

ありがとう、と微笑み返した。

渦巻く闇が濃くなっていく。このまま消えるのだと思っていた。だが、ケルベロスは意外にも長身を屈めて俺の耳元に唇を寄せた。

咄嗟に反応できなかったが、俺に反応させないように肩に置かれた手に力が入ったのを感じた。吐息が耳にかかる。内緒話をするような体勢だったが、ケルベロスの硬い声色はこれは決して穏やかな話ではないと告げていた。

「これは忠告だ。気をつけよ。…貴殿の契約主はなかなか厄介なものを持っているぞ」

「それってどういう、っ待って、」

イチルが厄介なものを持っている?

だが、聞く前にケルベロスの姿は闇と同化し、霧のように消えてしまった。

ケルベロスがいなくなった部屋でそれ以上蝋燭の光が揺らめくことはなかったが、俺の胸にはもやもやしたものが広がっていた。…不安を掻き立てるような一言だった。

(何を持ってるって言うの…?)

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。