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9.


そんな中、東の国で一人の青年が名乗りを上げた。青年は稀代の魔術師と称えられるほど膨大な魔力を持ち、また剣の腕も群を抜いて強かった。

青年が言った。

魔王を殺せば助かる、と。

自らの体を使い、命を使い、盾となっていた賢王にとってそれはどれだけ無慈悲で理不尽だったんだろう。だが、闇の精霊を賢王の体に無理矢理封じ込め、賢王を殺せるならば世界はきっと助かる。

青年は実は知っていた。魔王と呼ばれる人物が実は誰よりも慈悲深い賢王であることも、賢王が全てをかけて世界を守ろうとしたことも。

だが、それでも世界を救うために剣を抜いた。

賢王は最後まで自我を失うことはなかった。そして、青年の剣に倒れた。

賢王の肉体は滅んだ。だが、その魂まで滅ぶことはなかった。青年はその魂を剣に封印した。直後に青年も死んでしまった。

「その賢王こそ魔王ノクトであり、青年は後に勇者と崇められるオリオンだ。まぁ、魔王とは皮肉な呼び名で、魔獣を従えるのは不可能だったよ」

「ノクトの魂を封印した剣が、聖剣…。つまり、ノクトの魂が復活したら一緒に封印した闇の精霊も出てくるってこと?」

「…いかにも」

いや、封印は綻びはじめている。

既に闇の精霊が出てきているから、魔獣が現れているんだ。なら、ノクトの魂が復活したら果たしてどれだけの闇の精霊が溢れ出してくるのか。考えるだけでぶわりと全身の鳥肌が立つ。

「そもそも闇の精霊が溢れたのはどうして?」

「居場所を追われた、と感情が伝わってきた。詳しくは私も分からぬ」

「…………」

「あの時の私の精霊は狂っていた。…私は何も出来なかった。許せ、風」

そう呟いたケルベロスの声は罪悪感に染まっていて、本当に悲しみを噛み締めるようで、彼は俺を見ているのに、その謝罪の言葉は俺ではなく先代の風の王へと向けられたように聞こえた。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。