その姿を見て、哀れんだ王が二人いた。
光の女王と風の王だった。
二人は賢王へと加護を与えた。光の女王は闇の精霊を消し去り、魔獣のように自我を失わないようにする光の力を。風の王は獰猛な魔獣を切り裂き、国境の結界を強化する力を。
二人の王のおかげで賢王は自我を失って狂うこともなく、状況は改善しかたのように見えた。
だが、闇の精霊達は加護の力を通して、風の王すらも蝕みはじめた。
光の女王は闇に耐性がある。だが、風の王にそれはない。風の王が一瞬で呑まれることはなかった。だが、それでも黒ずんでいく体に日に日に弱り、限界を感じていた。
王が暴走しては世界が滅ぶ。
そう悟った風の王は雷の王に言った。
どうか私を殺してくれ、と。
自分の力を切り離し、加護として与えた風の王はその分他の王よりも弱い。さらに、闇の精霊に蝕まれているから、雷の王が風の王の願いを聞き入れることは簡単だった。
風の王が死んだことにより、賢王のもとから風の加護の力が消えてしまった。魔獣を食い止めることが難しくなり、被害は増えていった。
今までは賢王の国の近くでしか現れなかった魔獣は、賢王の力が弱まったことにより、各地へと広がっていってしまった。
世界は混乱へと陥った。
魔獣が人を襲い、殺し、食らう。それはそれは恐ろしい時代だったんだ。
聖獣はいつ自分が魔獣になるかと怯え、人間は仲がいい聖獣すらも豹変するかもしれないことに怯えた。闇の精霊が湧き上がるのを止める方法も、暴走した聖獣を止める方法もない。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。