昔々、とある国に賢王がいた。
そのまだ年若い賢王は政治の才能に恵まれ、心の底から民と聖獣を愛していた。
人と聖獣が共存できることに尽力し、学問にも農業にも医学にも力を入れた。それはそれは聡明で慈悲深い賢王の治世は、間違いなく国を繁栄へと導いていった。民も彼を慕っていた。
そんな矢先だった。西側の国境から溢れるようにして闇の精霊が流れ込んできたのは。
精霊は自然の元素を司る。たとえば火の精霊が多い土地は熱くなり、風の精霊が多い土地はよく風が吹く。夜を司る闇の精霊が多ければ多いほど夜の時間が長くなり、昼は短くなる。
このままでは昼が来なくなる。
賢王はそう懸念した。賢王は強い魔力を持っていた。その力を使って国境に結界を張り、闇の精霊が国に入ってこれないようにした。
だが、さらに悪いことが起きた。
行き場を失った闇の精霊が、聖獣と融合したのだ。
聖獣達は毛皮が闇の色に、目が血の色に染まり、かつての穏やかさなんて見る影もなく獰猛に、残忍に人を襲っては食い殺し始めた。そして、この魔獣達は結界を突破した。
賢王は仕方なく魔獣達を殺した。だが、結界では闇の精霊を防げても、魔獣までは防げない。優しい賢王は諸刃の一手を打った。
闇の精霊を我が身に封じ込めたのだ。
日が経つにつれ、賢王の髪はくすみ、目は赤らんでいった。そして、ついにかつての姿を失い、魔獣と同じ闇の色の髪と血の色の目になった。
その姿を見て、民が言った。
魔王だ、と。
恐ろしい姿に怯え、ほとんどの民が国を出た。だが、皮肉なことに賢王の体の許容量を超えても闇の精霊は溢れ続け、魔獣は生まれ、国に残った僅かばかりの民も殺された。
だが、賢王は最後の一人になろうとも結界を張って闇の精霊を食い止め、魔獣達を殺していった。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。