「お待たせ。ごめんね、随分眠っちゃって」
書斎の扉を開ければ、全員が揃っていた。
ソファーに座ったオーツェルドは表情が硬くて、隣で若干そわそわしているホーリエは緊張しているのがあからさますぎる。その隣で浮いているマーメイドは苦笑いをしていた。
長椅子に座っているイチルはじっと俺を見ていて、シルフは本棚の前で本の背表紙を眺めていた。
そして、一人がけのソファーを堂々と占領している男が誰か、想像は難しくない。
外見年齢は三十路間近の二十代後半。だが、それにしてはやけに貫禄が出ていた。
漆黒の髪をオールバックで撫で付け、黒曜石の鋭い目で俺を見据える。美形ではあるが、若い優男のような綺麗さではなく、死線を乗り越えてきた戦士ような威風堂堂とした迫力を纏っていた。
黒を基調とした軍服のような服にマントを身につけた男は、圧倒的な存在感を放っていた。そして、俺と目が合うと組んでいた足を戻し、背筋を伸ばして姿勢を整えた。
「待っていたよ、風」
ゆらり、蝋燭の炎が揺らめいた。
「そんなに怖い顔をしないで。仲間が怯える」
ホーリエがむっとしたのが見えたが、特に何も言ってはこなかった。
テーブルを挟んでケルベロスと向かい合う一人がけのソファーに座る。本音を言えば、俺だってケルベロスと対峙はしたくないが、この場には俺しか真っ向から意見できる人がいないような気がする。
それに、ケルベロスは味方だと思う。
確かに聖獣の暴走はケルベロスの失態かもしれない。だが、彼のあの時の声色や表情からして、彼だってこの事態に心を痛めている。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。