『書斎って?』
『ケルベロス様がいらっしゃいます。この機会にお話を伺った方がよろしいかと』
そうだ、話があるって言ったのは俺だった。
『ところで、俺はどれくらい眠っていたの?』
『二時間も満たしておりません』
『町は?怪我した人もいたんでしょ?』
『…はい。ですが、マーメイドがいたことが幸いしました。全員治してくれました』
『そう。よかった』
窓の外を見れば、空は暗いままだ。だが、最後に見た時は真上をすぎたばかりの満月は、随分と西へと傾いていた。
ケルベロスがいるならこれ以上待たせてはならないし、小鳥の姿で会うのも失礼になるのかもしれない。ドラゴンといた頃は人間になれなかったから仕方ないとして、今は人の姿で会うべきだ。
魔獣と戦ってから、体の感覚が少し変わった。今なら自分の意志で姿を変えられる。
着ていた衣服は戦闘でボロボロになってしまったから困った。だが、部屋の入り口付近に俺が使っていた鞄が目に入った。起きたばかりはなかったそれは、イチルが持ってきたんだろう。
(気は利くけど、素直じゃないんだよね)
もっと素直になればいいのに。
『シルフ、先に行ってて。俺は支度したらすぐに向かうから』
『分かりました』
そう言って、彼女の姿が溶けて空気に消える。
本当はシルフと二人きりでいるなら町のことを話す絶好のチャンスだったが、今はケルベロスと話す方が優先だ。シルフはこの町にいるし、後で話しても支障は出ないと思う。
人の姿になって、服を着替えてから部屋を出る。そこはシルフの神殿の奥にある一室だったらしく、気配を探れば書斎の場所は簡単に分かった。
自分を落ち着かせるべく深呼吸をした。
(覚悟を決めろ)
俺は、全てを話す。
[ 180/656 ]
prev /
next
[
mokuji /
bookmark /
main /
top ]
王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。