『貴殿とて既に分かっているだろう?助ける方法などたったの一つもありはしないと』
分かってるよ。分かってる。
そんな方法があるんだったら、俺がとっくに助けていたんだから。希望はないことも、ヨトとヒッポグリフのどちらを優先すべきかも。
一拍、たった一拍の静寂。それだけを空けて、ケルベロスは言いにくそうに、それでも意を決したように揺るぎない声色で言った。
『酷だが、風…、貴殿が殺すか、私が殺すか、…好きな方を選ぶといい』
…なんて残酷な選択だ。
だが、それ以外に選択肢はなかった。
そして、俺に時間さえ与えずに、ヒッポグリフはヨトを真上へと投げる。空中に放り出された小さな体は恐怖で小さく丸まっていて、そのまま落ちれば鋭い嘴が待ち構えている。
自我を失って、二度と元に戻らずに人を食い殺すだけの聖獣。未来があって、可能性があって、明日も笑って生きていられる子供。
一人しか救えないのなら、どちらを優先すべきかなんて分かりきっているんだ。
(ごめん、)
…ごめん。
涙が溢れた。
(ごめんね、)
人の姿に戻って、ヨトを抱きかかえる。
そして、鋭い風の刃で、せめて苦しまないように一発でヒッポグリフの首を切り裂いた。ザシュッ、と鈍い音がする。友人の最後を見届けたいのに視界が滲んで何も見えない。
重力に従い、重たい音を立てて地面に叩きつけられたヒッポグリフの体。離さないようにきつく抱えたヨトの体の上に、俺の目から溢れた涙がいくつも落ちて、弾けていく。
…後悔はしていない。
していないけど、
(…とても悲しいんだよ)
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。