俺は何がしたいんだろう。
魔獣の正体を知る前だったとはいえ、俺だってさっきまでは魔獣を殺していて、ただ理不尽にケルベロスだけを責めている。
知っている。知っているんだ。
魔獣は二度と聖獣には戻れない。元に戻す、助ける方法なんてないし、放置したり見逃したりすれば無関係な町人が殺されてしまう。そんなことは、もうとっくに分かっている。
ケルベロスは正しい。今、俺達が打てる最善の、そして、唯一の一手は、たとえどれだけ無慈悲だろうと魔獣を殺してしまうことだ。
彼は言っていることも、やっていることも正しい。なのに、俺は割り切れなかった。
『力でしか解決出来ないなら、…あんたなんか王になるべきじゃなかった!!』
ケルベロスが一瞬だけ目を伏せた。
『…そうだなぁ、貴殿の言う通りだ』
ひどいことを言っている自覚はあった。だが、それでも彼の口から放たれる低い声に苛立ちはなくて、代わりに悲しさを帯びていた。
『それでも、殺さねばならぬのだよ』
『っ!?』
ケルベロスが起き上がる。また魔獣に向かっていくのが目に入って、俺も後に続いた。
周囲の気配を探ると、魔獣はもうあのヒッポグリフ一体しか残っていないようだ。俺とケルベロスも結構殺したが、他はイチル達が片付けたらしい。
あのヒッポグリフだけは、死なせたくない。
大事な大事な友人なんだ。
簡単に迷子になるちょっとドジな子で、一人にすると耐えられない寂しがり屋で、泣き虫で、寝相が悪くて、それでもとても優しくて、穏やかで、温かくて、いい子なんだよ。だから、
(どうか殺さないで!!)
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。