頬を撫でる風が、とても気持ちいい。
ログ・ノーレンを出てからすぐに森に入った。木が多い場所は心なしか空気が綺麗で、時折聞こえてくる鳥のさえずりに心が癒される。
木々はとても高く、葉も広いため、森の中の道を走ったところで直射日光に当てられることもない。ただ葉っぱの向こうから差し込む木漏れ日だけが、柔らかく俺達を照らしていた。
ざわり、と葉がざわめく。
「ごめんね、俺の契約聖獣にしちゃって、」
『全然!むしろ嬉しいよ、王様と契約だもん!』
宿で俺が来ないと分かった後、イチルは渋る様子も見せずに宿を出た。俺としては少しくらい駄々をこねてほしかったが、あの一言を思い出せば気分は全く沈まなかった。
待ってる、というあの言葉。
イチルは俺が必ず戻ると信じているから、こうもあっさりと進める。そう考えると嬉しい。
そして、目的地はもちろんラニアだが、俺自身がラニアについては何も知らず、しかも、目的地がラニアだと言ってしまうと会話で全くの無茶だとバレてしまう可能性が高いから、何も教えていない。
ラニアへの道は知らない。迷子になってしまったんだから、ヒッポグリフも知らない。だから風の精霊達に道案内を任せている。風に従って進めばきっとラニアにつく、…と思う。
…実は、かなり適当だ。
ヒッポグリフは口裏を合わせて、俺の聖獣だということにした。マーメイドが怪我を治したから、現在俺は彼に乗って疾走している。馬が三騎とヒッポグリフ一体が爆走する。精霊達が追い風にしてくれるから、速度は速めだ。
マーメイドはいない。馬旅は苦手らしく、必要なら呼んで、と一言言い残して消えてしまった。どうやら彼女は水が存在する場所ならどこにでも移動できるらしく、必要な時はホーリエの召喚に応じてまた現れる。
因みに、どこかの湖に行ったらしい。
その能力でラニアに連れて行ってほしかったが、水属性以外の聖獣にも人間にも使えないと言っていたから諦めた。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。