7.完結
「…やっぱり見たじゃん」
「お前、分かりやすすぎ」
メールを見て、今度こそ携帯をしまう。
返事はメールでするよりも本人が目の前にいるんだから、このまま言ってしまっても構わないんだろう。
いや、何回も言っているのにも関わらずいまだに恥ずかしいから、一度微笑んでから八尋の額にキスを落とした。
日が沈む直前の真っ赤な夕焼け。気のせいでなければ、八尋の首が色付いている理由は夕焼けだけじゃないんだろう。
「…このキス嫌いなんだけど、」
「知ってる」
これはさよならのキスだ。
昔、別れ際に決まってキスした場所。
今日はもう会えない。その代わりに明日また来るから。あの時は名残惜しさを我慢するためにキスしたんだ。
だが、このキスはもう必要ない。
「意味を変えればいい。明日また来るんじゃなくて、今日も明日も傍にいる」
八尋がふっと笑った。
「それいいね」
明日があるから今日を我慢するんじゃない。
今日も、明日も、愛しいお前の傍にいる約束のキス。何があってもちゃんと傍にいるから、安心していいんだ。
嬉しそうにはにかむ八尋が腰に腕を回してくる。そのままグッと抱き寄せられれば、必然的にその胸の中に飛び込んでしまって、閉じ込められてしまった。
そして、近付いてくる唇。
観覧車の一番上に達した。この瞬間、黄昏の光と同化する空に一番近い場所。
真横から降り注ぐ光に包まれて、愛しい人の腕に抱き締められて。俺も八尋の首に腕を回せばその目が優しく細まる。
空も町並みも息を呑むほど美しい。
だが、今目に入るのは八尋しかいなくて、目を閉じた次の瞬間、唇に与えれた体温は、恋しくて心地よくて愛しかった。
未来へ進もう。
二人で幸せな未来へと。
(幸せを運ぶ鳩 完結 2015.12.25)
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