6.
「後夜祭は十九時からとなります。各広場に焚き木を組みますので、有志の方は閉会式の後に集まるよう通達してください」
大きな三つの広場の他に、カインズには中小の広場が二十以上存在する。その全てに焚き木を組んで、踊るのが後夜祭だ。
音楽はオーケストラ隊が各広場にバラけるほか、一般から有志が募られる。
ヴァイオリンやセロだけでなく、アコーディオンやハーモニカ、果てには木笛やケーナまで登場するから後夜祭は賑やかだ。
帰りたい人から自由解散になるが、たいていの海軍と町人は入り交じって踊りながら夜明けを迎えるのが恒例だ。
だから、問題が発生する。
男性に対して、女性が足りないのだ。
つまるところ、こうなる。
「サバイバルゲームで水路に落ちた、あるいは軍帽を奪われた方は女性役をやってもらうのがペナルティです。強制です」
絶対に嫌だ。
会議室にいる全員の心の声が一つになった。
「以上で、質問はございますか」
手を挙げる人はいない。
アスティアーニ先生は会議室を見渡すと、一つ頷いて静かに資料を閉じた。
「無ければこれで打ち合わせは終わりです。個別に資料が一部用意されていますので、取りに来るのを忘れないでくださいね」
次々と椅子から立ち上がった。
ざわざわと話し声が広がっていった。
俺の左の方からガタッと音がしたかと思うと、ピンク色の塊がクウォーツ先輩に飛びついた。先輩が抱きとめる。
エルミックは先輩に会釈してから立ち上がり、会議室の前で資料を配っているアスティアーニ先生のところに向かった。
「ノエル先輩、お久しぶり!」
「やぁ、久しいね、ライトレッド」
「先輩の演奏がまた聴けるのは感激です」
「ありがとう」
四人分の資料を持って帰ってきたエルミックが、表面に書かれた名前を一つ一つ確認してから俺達に配ってくれた。
俺はそれを受け取り、めくった。
「気が効くね。ありがとう、モルガン」
「頼んでもいないがな」
「そう言うな、ヘンゼル。エルミックが拗ねるぞ。エルミック、感謝する」
「な、誰が拗ねるかよ!」
エルミックが椅子に勢いよく座る。
あまりにも勢いが良かったから、椅子はぎしっと軋んで悲鳴を挙げた。
「僕は海軍。君達はどっちの役だい?」
「俺も海軍です。良かったです、先輩と同じ役になれて。まぁ、敵でも容赦するつもりはありませんが。頑張りましょう」
「はは、それでこそ中佐だ」
ヘンゼルも資料めくる。
それに目を通すなり、奴は地獄のサタンも裸足で逃げ出すような悪役じみた笑顔を浮かべ、パチンと指を鳴らした。
全く軍人だとは思えない顔だ。これで可愛さを武器にしていると言うんだから、裏表がありすぎる。無理もありすぎる。
「俺は海賊役だ」
(…だと思った)
むしろ、海賊より海賊らしい。
「ち、お前もかよ。俺もだ。どこまで腐れ縁なんだよ。あと、前で聞いてきたが、アスティアーニ先生も海賊役らしい」
「ロー、ゼノはどっちだ?」
「俺と先輩と同じ。海軍役だ」
「なら、僕とクラウド、エヴァンスが海軍で、君ら二人とティティ先生が海賊なんだね。うわぁ、楽しみ!」
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