14.
いつの間にか朝日が昇っていた。
朝の真っ赤な太陽が水平線から顔を出し、海面を鮮やかに反射させる。
青みがかった夜明けの空。淡いピンクに染まった綺麗な雲が後ろに流れていく。雲の間から見える朝の月と瞬くいくつかの星。
船の周りで飛ぶ鴎。穏やかな波が船にぶつかって、キュイ、と高い鳴き声が聞こえて海面を見ればそこにはイルカの群れがいた。
イルカの一頭が高く跳ぶ。弾けた水しぶきが朝日を受けて宝石のように煌めいた。
雲を追い越して、夜を置き去りにして、俺達は明日に向かって進んでいく。
「夜明けだ」
「…俺じゃなくて景色を見ろ」
「お前の方が綺麗なんだから仕方ねぇ」
リドからの視線を感じた後、やけに開きなおった言葉が返ってきた。照れて笑えば、リドも俺を抱きしめたまま笑った。
朝焼けは何度だって見てきた。
海軍だった頃、朝は早いし、俺はそれに慣れていた。どの季節だって、どんな天気だってずっと朝焼けを見てきたんだ。
イルカも、鴎も、雲も、月も、星も、何度も何度も見てきたはずなのに、今目の前に広がる壮大な景色は記憶にある朝焼けとは全く違っていて、全くの別物だった。
頭上を通りすぎる雲も、消えていこうとする月も、幻想的な空と太陽も。
もっと自由で、もっと美しい。
「で、次はどこに行きてぇ?」
「んー、急に言われてもなぁ」
「とりあえず航海長はお前に任せる。うちは正式な航海長がいなくてだな、いつも俺が適当に決めてた。今日からはお前がやれ」
「はぁ?…いや、突然すぎるだろ」
だが、この胸の高鳴りは、きっと綺麗な朝焼けのせいなんかじゃない。
俺を抱き締める俺の恋人が原因だ。
朝焼けが綺麗だが、リドはそれ以上にもっと綺麗で気を抜いて目を合わせてしまうと、もう離せない。気高くて自由なエメラルドをずっと見ていたいと願ってしまう。
まぁ、今日からはそれができるわけだが。
「じゃあ、お前を独り占めできる場所」
優しい潮風が、ふわりと頬を撫でた。
(潮風に誘われて 完結 2017.3.14)
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