13.
ぶー、と軍艦の重々しい汽笛が鳴る。
重たく低い音が夜明けの清々しい空気を揺らし、それに驚いた鴎達が空高くに舞い上がってはまた船の後を追う。
その音は俺達へ挨拶するようにも、これからの未来に期待するようにも聞こえた。
そして、それが鳴り終えると、ゼノとエルミックが乗っている船が進行方向を変えた。
まっすぐに並走していた二隻の船の間に距離ができて、じわじわと広がる。ゼノとエルミックが離れて小さくなっていく。
小さく俺に手を振ったゼノに手を振りかえして、俺は二人を見送った。
「ロー、寂しいか?」
寂しくない、と言えば嘘になる。
だが、これは紛れもなく俺が選んだ道だ。
俺だって今も軍服を着てゼノの隣に立つことができただろう。だが、俺はそれよりも今いるこの場所に惹かれて、選んだ。
それに、ゼノだって俺といるよりもずっとずっと幸せになる未来を手に入れた。
ゼノのあの穏やかな表情。エルミックのあの幸せそうな表情。あの二人の未来に心配することは一つだってありはしないんだ。
軍艦は徐々に遠ざかり、二人の姿はついに見えなくなった。振っていた手を下ろして、軽く体をリドに預けた。
船が通った後に残される白波ばかりが海面に広がって、濃紺の海面で目立って、やがて薄まっては弾けて消えていく。
俺は視線をリドに戻した。
「言ったはずだ、リド」
綺麗なエメラルドを見据える。
「俺は後悔なんてしてないんだ」
「へぇ、はっきり言いきるんだな」
「当たり前だ。…お前の隣で寂しがっている暇なんてあるのか?」
「全くねぇな」
自信たっぷりに彼が笑う。
出会った頃と変わらず堂々としていて、ただ一つ変わったことがあるとすれば、瞳に浮かぶ愛情が濃くなっていた。
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