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10.


「は、ぁあ?嘘だろ!?」

商船に見えるから並走はまだ問題ない。

そうじゃなくて、問題は向こうの甲板に立ち、手摺に頬杖をついて面白くなさげにこちらを見る軍服姿の男だった。

さらり、と風に靡くブラウンの髪は柔らかくて、朝日に照らされてキャラメル色になる。その切れ長の瞳も同じ色で。

十年以上も前から付き合いのある見慣れたその男は衝撃に震える俺を一瞥し、呆れた、とでも言いたげにじとりと目を細めた。

「ゼノッ!?」

弾かれるようにしてリドから離れようとしたが、妙に頑固なリドは力を緩めずに俺を腕の中にさらに強く閉じ込めた。

「お前、ちょ、離せって!」

「いやぁ、向こうもちょうど出港だったんだな。偶然だと思わねぇか、偶然」

「とぼけるな!俺の後ろをちらちら見てただろ!…って、それじゃあゼノにも見られたってことか!!…うわぁああ…」

船はきっと最初から並走していた。

リドの自室の窓から見える側の海は海軍の船がいる逆側で俺に見えず、甲板に出てきてからは後ろも振り向かずにリドのところまで一直線に歩いてきたんだ。

なのに、リドが選んだ場所は見晴らしがいいと同時に相手からも見やすくて、俺がリドに甘えるところも全部見られた。

(なんで一度も振り返らなかった!?)

認める。リドしか眼中になかった。

リドの首筋に顔を埋めて顔を隠すことしかできないが、絶対にもう手遅れだ。

クツクツと上機嫌に笑うリドがたまらなく腹立たしいが、しばらくしてゼノの反応も気になった俺はちらっとそちらを見た。

「あいつだって俺達のこと知ってんだぞ?問題ねぇって。開きなおれよ」

「開きなおるとかの問題じゃなくて、」

溜め息すら出てこない。

グリグリと首に擦り付ける俺の頭をリドが慰めるように撫でてくれたが、全力でその手を叩き落としたい衝動にかられた。

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