9.
「…キーツらしいかもしれないな」
キーツは確かに海軍としての誇りを持っていたし、立派な軍人である彼は優秀で、未来も明るいものだと断言できる。
軍人を辞めずに、近くでクウォーツ先輩を支える。それはキーツなりの誠意だったし、愛し方だったと思うんだ。
遠距離恋愛はこれで終わった。
これ以上平気なふりをしてキーツが寂しがることもないし、クウォーツ先輩だって恋人の隣でまた指揮者に復帰できる。
まだまだ早いが、来年の聖海祭を想像するだけで楽しみになって口元が緩んだ。
「というか、これって俺達二人に宛てたものだよな?クウォーツ先輩、なんで俺がお前と一緒に来るって分かったんだ?」
「さぁな」
リドですら不安になっていたのに。
だが、クウォーツ先輩なら、ずっと前からこうなると予想していた気がする。
この恋心を俺よりも早く、はっきりと気付いたのはあの先輩だったんだから。何度も何度も彼に背中を押してもらったんだから。
「本当にあの人には敵わないな。…クウォーツ先輩も幸せになってよかった」
「あぁ」
来年の聖海祭にまたカインズに来よう。そして、先輩が指揮した演奏を聞こう。
今度はリドと一緒に。
先輩の指揮はいつもすごくて、綺麗で堂々とした演奏になるが、リドと一緒ならまた違った風に聞こえるかもしれない。
演奏が終わった後はこっそりとサバイバルゲームを見てから宿に帰って、先輩とキーツと互いに恋人の話をしようか。
今から楽しみで仕方なかった。
「来年の夏、またカインズに来るぞ」
「はっ、ノエルの奴、絶対ぇ惚気やがる」
「だったら俺達も惚気ればいい」
そう言ってまたリドに抱き着く。
リドはニヤリと笑いながら俺を抱き締め返し、また一瞬だけ俺の後ろを見た。まるで勝ち誇ったような得意げな笑み。
リドが俺の後ろを見るのはこれで二度目で、不思議に思った俺は今度こそ振り返った。
俺の目に飛び込んできたのは、
「なっ、」
真横を滑る海軍の船だった。
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