6.
あのダイヤは俺には必要ない。
リドが守ってくれるなら取り引きをするまでもなく逃げきれるし、軍服を着た頭の硬い連中に会うのはひどく疲れる。
俺と海軍の縁は切れた。完全に。
海軍を否定するつもりじゃない。それを誇りに感じていた時期があったことも、俺は後悔しているわけじゃなかった。
俺が投げ捨てたダイヤのようにそれは輝いていて価値のあるものだったが、俺は魅力を感じないんだから石ころも同然だった。
あの石を捨てることに迷いがなかったように、俺に未練なんてものもなかった。
「はぁ!?おま、何してんだよ!あのダイヤにどれだけの価値があると思って…!」
「お前の懸賞金の軽く数倍だな」
「だったら…!!」
「いらないだろ、あんなもの」
リドの表情が笑える。
鳩が豆鉄砲を食らったような表情についに声に出して笑えば、やはり理解できないと言うような困惑した顔になった。
「海軍と交渉するつもりはなくなった」
いつだったか、笑っている方が綺麗だ、と言われたことを思い出した。これからリドがその表情を見ることは多いだろう。
「信念とか、誇りとか、昔大事にしていたものはいつの間にか重たくなって、俺に持てなくなったから全て置いてきたんだ」
「え…?」
「そんなのよりもお前の言っていた自由ってのが気になって、自由な海に憧れた」
「ロー、…何を、」
「俺はどうやら本当に狼らしい。飼い犬にはなれない。…海軍中佐、ローウェン・クラウドは辞職したよ、とっくにな」
リドにとって予想外だったらしい。
まったく、さっきまで自信に満ちていたのに、いざ俺が本当に決意を口にすると呆然として、信じられなさそうにする。
嘘でも夢でもないことをはっきりと教えてやるべくまっすぐリドの目を見詰めて、迷いのない口調で宣言してやった。
「俺は、…お前と一緒に行くよ」
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