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5.


「ローウェン、」

呼ばれたのは愛称じゃなくて本名だ。

リドの眼差しはとても誠実で、有無言わさず俺を誘拐しやがったのに、この時ばかりは真面目で思わず口を閉じた。

「俺と一緒に生きてほしい」

ザア、と波が揺らぐ優しい音。

先程よりもっと白くなった空に同化するような白い翼を広げ、鴎が飛ぶ。瞬く星の光は薄くなって、かなり傾いた夜明けの白い月は穏やかに西の空にかかっていた。

水平線から太陽が昇ろうとしている。目を奪われるような美しい景色だったのに、景色を見る余裕なんて俺にはなかった。

「お前に海賊になれとは言わねぇよ。客として船にいろ。海軍にも、民にも攻撃しねぇし、むしろ困ってんなら手を貸す」

ダイヤがとても冷たい。

俺にはそれがただの石にしか見えなかった。

俺の世界すら鮮やかにさせた綺麗なエメラルドが目の前にあるのに、味気なくて冷たい石に価値なんてあるんだろうか。

「お前が望む場所に行くし、お前に楽しくて自由で幸せだって言わせるつもりだ」

「…リド、」

「だから、俺の傍に、」

言葉が終わらないうちだった。

(言わせてやるもんか)

いつもいつもお前にばかり格好つけさせてやるもんか。たまには俺に振り回されて、驚いたアホ面でも晒しやがれ。

エメラルドが限界にまで見開かれて、俺はリドのその顔に笑いがこみ上げてきた。

(いい気味だ)

俺が投げた莫大な価値のあるダイヤは、夜明けの空を滑っていく。キラキラと光を反射するそれはやけに目立っていて、高く大きく放物線を描いて落ちていった。

そして、ドボン、と鈍い音を立て海面に落ち、そのまま重力に従って沈む。

宝石箱のような海に消えた。

きっともう見付からない。俺はどこに投げたか分からないし、こんなに広い海の中で海流にさらわれて移動しただろう。

もう誰も見付けることができないんだ。

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