4.
取り引きができない。つまり、海軍の上層部は相変わらず俺の退職を認めないわけで、俺はこの半年送ってきたような逃亡生活をこれからも続けなくてはならない。
半年はなんとかなった。だが、長期間となると逃げ切れる保証はない。
で、海軍から逃げきれる唯一の手段は、
(…リドの船に乗ること)
元海軍であり、航海路を熟知しているリドなら海軍の船と鉢合わせにはならない。
もし見かけたとしてもこの船は一見では海賊船に見えないし、戦闘になったところでリドの実力なら余裕で逃げきれる。
「やられた…。お前、よくも…!!」
もう他に選択肢がない。
さっぱり退職することもできず、一人で逃げ回ろうなら間違いなく捕まる。
せっかく手に入れたダイヤは取り引き材料として使えなくなって、逃げきりたいなら大人しくリドの傍にいるしかない。
ギリ、とダイヤを握りしめ、強くリドを睨めば得意げな眼差しが返ってくる。
「最初からこのつもりだったな!」
「何の話だ。降りたいならダイヤ持って降りても、俺は構わねぇんだけど?」
「卑怯だ!この海賊!」
「知ってる。俺は海賊だが、何か?…これが海賊のやり方だよ。負けを認めて素直にこの俺に愛されな、犬っころ」
もう返す言葉が見付からない。
一緒に生きていくことを隠して、若干の罪悪感を感じていた俺が馬鹿みたいだ。
もう握りしめたダイヤの扱い方が分からない。あれほどこれで自由の身を得られると思っていたのに、もう投げ捨てたい。
一緒に行くつもりだったが、この罠に悔しくなって、一瞬割と本気で顔面に投げつけてやろうかと思ったくらいだ。
だが、そんな俺の心中も知らず、リドは勝ち誇った笑みで満足げに鼻を鳴らした。
「言ったはずだ」
優しく首筋を撫でられる。
それは昨日鬱血させられた場所だった。
「絶対ぇ手に入れてやるってな」
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