3.
「あと、…ほら、」
ぽい、と何かを投げられる。
反射的に受け取ればそれは俺にくれると約束したダイヤで、あまりに上手くことが運ぶものだから拍子抜けしてしまった。
「…いいのか?これを持って船を降りてしまうぞ?お前とは会わなくなるんだぞ?」
「構わねぇよ」
行かせるつもりはない、とその瞳が言っている割には声色に不安や寂しさはなくて、愉快そうに俺を見ていた。
「お前にできるもんならな」
低く、僅かに掠れた色っぽい声。
俺にリドから離れる覚悟なんてない、と言われている気がしたが、言葉の裏にはさらに別の意味が隠されている気がした。
穏やかに揺れる甲板の上、リドの視線が一瞬だけ俺の後ろを見たように感じたが、俺は彼の真意を知りたくてたまらなかったからその視線を追うことはなかった。
そして、リドがからかうように笑う。
「それ、洗っといたぜ」
「は?…っ!!」
その言葉に思い出してしまった。
昨夜、このダイヤを中に入れられて、擦られて俺は感じて盛大にイッたんだ。
「ダイヤを、…お前って奴は!!」
あぁ、分かった。よく分かった。
リドがこんなに自信を持っている理由が。
このダイヤは海軍と取り引きをするためのダイヤだ。ダイヤを返してほしければ俺を辞職させろ、と当初脅すつもりだった。
ダイヤを国に返して俺は自由の身になるから、一石二鳥だと考えていたんだ。
取り引き用のダイヤだったのに、
「もう交渉できるわけないだろ!!」
いくら洗ったといっても、自分が中に咥え込んで思いっきり喘いだんだ。
いや、喘がされた。
こんなダイヤが国に返って、大事に保管されると思うと顔から火が吹きそうだ。交渉の場を設けられるはずがない。
つまり、俺は、
(海軍と取り引きをする材料がない)
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