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17.


それっきりリドは何も言わなくなった。

ただ愛おしいそうな、それでいて切なそうな眼差しで俺を見詰めてきて、黙って俺の頭を撫でて髪を梳くだけだった。

俺の未来をめちゃくちゃにしたんだから少しくらいは意地悪させてほしい、とも思うが、やはり惚れているのは俺も同じだ。

仕方がないから本当のことを言おうと思った矢先、情事で疲れきった体が眠気を訴えてきて、瞼が急激に重たくなる。

指先すら動かせなくなって、優しい体温の中で目を閉じることしかできなかった。

「眠いか?」

「少し」

「寝ろ。後処理は俺がやる」

「…悪い」

前にも肌を重ねたことはあった。

だが、思えば共に朝日を迎えたことはなくて、いつも眠るリドを置き去りにするか、俺が一人ぼっちで置き去りにされていた。

今日からそんなことはなくなる。たった一人で目覚めることも、起きたらベッドに一人分のスペースが空いていることもない。

とても幸せだった。

ずっと渇いていた心が潤って満たされて、欲しくてたまらないものが手に入った感覚。

幸せの終わりを告げる鐘の音を、結局俺達が聞くことはなかった。だが、だからこそ魔法が消えないのではない。

お伽噺の中、鐘の音を聞いてしまったあの二人だって最後は結ばれて幸せになった。

幸せは魔法なんかじゃなかった。

魔法じゃなくて、現実のものだった。

誰かに意図されて与えられたものではなく、本能で惹かれて、愛し合って、自ら強く結んだ絆は鐘の音なんかじゃ消せない。

何にも消されない愛情という炎は、消えることなく燃え盛っていくのだろう。

ずっと、ずっと、永遠に。

そして、俺はリドを舐めていた。

じゃれつく猫というのは見かけばかりで、本当は初めて会った頃から変わらない悪戯っぽくて、少し強引で横暴な黒豹だ。

俺がリドから離れられなかったように、リドも俺を手放すつもりはなかった。

罠は既に張られたが、俺がそれに気付くのはもう少しだけ後の話だったんだ。

(act.8 君という宝物 終)
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