×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


4.


あれから俺達は屋敷に正門に向かった。

脱出するだけなら裏門や低い塀を乗り越えたりする方法もあったが、バレることなんてありえないと踏んでいた俺達は一言も相談することなく堂々と歩いた。

真夜中までは時間がある。だが、封鎖するという情報は嘘ではなく、この時点でかなりの数の軍人が集められていた。

「このお嬢さんの具合が悪いようで」

「誰も出さないようにとの言われてまして」

「病人なんだ。それに身元もはっきりしているから特例だ。その証拠に俺が付き添って出てきたんだ。大丈夫だから出せ」

と、少しの後ろめたさもない涼しい表情で、リドは完璧に嘘をつき通してくれた。

白い馬車では相変わらず従者姿のシルヴィアが馬を操り、俺とリドが乗った馬車は焦りもせずゆっくり走り出す。

過去を共にした仲間がいる屋敷は徐々に後ろに遠ざかり、ダイヤを持って恋人と乗った馬車は未来へと加速していく。

窓の外で流れていく港町の景色は見慣れているはずなのに、来たこともない新しい世界を走っているように感じた。

「…ダイヤは手に入ったが、」

おずおずとリドが切り出す。

「一度船に寄らねぇか?お前だって長旅の前にはいろいろ準備した方がいいだろ」

手放すつもりだ、とすぐに分かった。

「あぁ、そうだな」

まぁ、乗ったら降りるつもりはないが。

まだ教えてやらないが、きつく指を絡めて恋人繋ぎをしていたリドは、どことなく俺を引き留めているようだった。

(もう少しだけ意地悪させてくれ)

夢のような魔法は、十二時を告げる鐘の音と共に解けてなくなる約束だった。

だが、その鐘の音を耳にすることはなかったんだから、魔法が解けることもない。夢は現実となり、幸せは幸せのまま。

ガラスの靴が落ちることもなく、未来への歩みはついに駆け足となっていく。

そして、俺の隣にはリドがいて。

(…あぁ、幸せだ)

他に願うことは何もなかった。

[ 456/489 ]

[*prev] [next#]
[top][mokuji]
[しおりを挟む]