6.
※ゼノside
「はぁ、夢みてぇ」
離れた唇が名残惜しくて追いかける。
そうすれば、またちゅっと唇を啄んでは、子供を甘やかすように額にもキスされた。
「夢?…どんなのを夢見てたんだ?」
「お前を抱きしめたり、キスしたり」
「それだけかよ」
「いや、」
ニヤリ、共にエルが意地悪く笑う。
その笑みに一気に心臓が加速していったが、エルに悟られたくなくて動揺を押し殺しながら同じような笑みを返した。
だが、エルの方が一枚上手だったようで、俺の耳に唇を寄せては息を吹きかけるように低く囁いた。ぞっとするような艶を帯びた掠れ声がたまらず色っぽい。
「もっと過激なのとかもあるぜ」
その言葉と同時に大きな手が太股で不穏な動きを始める。これにはさすがにびっくりして、思わず叩き落とした。
エルの腕の中から抜け出す。そのまま距離を取れば、彼は不服そうに口を尖らせた。
「ばっ…、ここで始めんじゃねぇよ!」
「ここじゃなかったらいいのか?」
「っ!!」
恥ずかしい。ものすごく恥ずかしいが、とても惹かれるし嬉しかった。
「船に帰ってからだ!!」
「あ、やっぱりいいんだな」
「煩い、黙れ!」
胸の高鳴りがもう苦しいくらいだ。
ドク、ドク、ドク、と。胸を揺らすその音は幸せの証であり、春の訪れだった。
見慣れた世界が一気に色を持って鮮やかになり、温度を持って暖かくなり、花が綻んで芳しくなる。そんな想いの春が。
想いの花が萎(しおれ)れることも、独りの時間に凍えることも、色のない世界になることも絶対にありえないんだ。
幸せはこの先ずっと、ずっと続く。
その中で俺はエルと過ごしていくんだ。
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