4.
※ゼノside
甘えた声で呼ぶ。
「エールぅー、」
これが幸せというものなのか。
誰彼構わずに肌を重ねあった人達にも、どれだけ手を伸ばしても届かなかったローにも、こんな感情は湧かなかった。
泣きたいほど温かくて、穏やかで、優しくて、凪いでいて、それでいて燃え上がる炎のように情熱的で、熱く滾る感情。
とても心地いい感情なのだ。
一度も経験したことのない胸の高鳴り。
「エル、不安か?もしかしたら俺がローのことを引きずるかも、って考えてる?」
エルの体が僅かに硬直する。
冷静を装っているようだが、全く距離のない俺に隠し通せるはずもないのに。
「怖かったりするのか?」
「……まぁ、…で、引きずるのか?」
「そりゃあ十一年の片想いだからなぁ…、引きずらねぇって方がおかしいんじゃね?」
嘘だ。未練なんてこれっぽっちもない。
ただ甘える理由が欲しかった。
恋人同士なのだから甘えるのに理由なんていらないが、始まったばかりの恋人関係の距離をいまいち掴みかねていた。
まったくおかしな話だ。あれだけ遊んでいて、娼館に入り浸って、歴代の恋人が何人もいて、ローにも呆れられて、なのに、今初恋のように胸がときめいている。
この高鳴りが慣れなかった。
「だから、もっと俺を惚れさせろ」
少しだけ高い位置。
見上げる黄緑色の鮮やかな瞳。
いつもは切れ長で鋭い印象なのに、穏やかに笑うように優しく細まった。
「で、ローなんて忘れさせろ」
ローへの想いは既に過去だ。
だが、それをエルに教えなかったら焦って、もっと愛してくれるだろうか。なんて頭の中では打算的なことを考えていた。
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