3.
※ゼノside
失恋したとは思えないほど穏やかだ。
いや、とっくの昔から失恋していたが。
受け入れたと言うよりも、得たものが失ったものより大きいから痛みがないのだ。
渇いた心も、傷ついた気持ちも、エルが包み込んで満たしてくれるんだから、失恋に悲しむ暇すらなく幸せに満たされた。
これでよかった、と言うつもりはない。
確かに今のローは昔より生き生きとして楽しそうだが、あのまま海軍であっても別の恋人に巡り会えるだろうし、何よりもっともっと昇格して栄光を手にしていただろう。
どちらの未来がよかったか。
なんて、考えるつもりもない。
ローはあの道を選んだ。それだけだ。
そして、ローが復職の道を選んだのを想像したところで、彼の恋人の位置に自分が収まるとは考えなかった。
もしそうなった場合、ローの隣は空席のまま、俺はエルの隣にいるんだと思う。
あぁ、笑ってしまう。
「…ゼノ?」
こんなにもエルが好きなんて。
「悲しくねぇと慰めてくんねぇの?」
「っな、おま…!」
おずおずと広げられた腕。
エルはグイグイ来るようで、実はこちらから迫るとたじろぐ節がある。待つことに慣れすぎたのかもしれないし、俺もエルが好きだとまだ実感がないのかもしれない。
とりあえず、広げられた腕に俺は思いっきり飛び込んで、強く抱き締めた。
香りも、体格も、雰囲気も、何もかもローと違っている。なのに、
(落ち着く…)
体中から力が抜いていくのを感じる。
その代わりに心が満たされていって、陽だまりの中にいるように暖かい。
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