2.
※ゼノside
ローが悩んでいたのは知っていた。
とても長い長い時間悩んでいたのを。
ふとした瞬間に物思いを耽る横顔。何かを思い出すかのように窓の外を見る眼差し。海戦の後、震えていた手。
ローは決して海軍を軽んじていたわけじゃなくて、悩んで、迷って、苦しんで、傷ついて、それでもこの道を選んだ。
分かってる。
(…俺に止める力なんてねぇよ)
間近で見てきたから分かる。
(ローは本気だ)
海軍としては有能な士官を失ったと思う。船の副長としても、船長がいなくなって航海の予定を調整する必要がある。
同期としては仲間を失ったと思う。長く長く共に笑い、共に戦った大事な仲間を。
だが、個人として想い人を失って悲しいかと聞かれれば、別にそうは思わない。
それはローの決断を受け入れ、応援したいと思ったのもあるが、もっと大きな理由として別の人を好きになったからだった。
確かに、俺はローが好きだった。
だが、それは過去の話でしかなくて、今は別の奴に恋心を奪われてしまった。
本気で彼に恋をした。だが、この先、俺の恋心がだったの一欠片でもローに属することは、きっとありえないだろう。
だって、
「悲しいか、ゼノ」
俺にはエルがいるんだから。
「悲しい…って言ったら慰めてくれんの?」
「来い、いつでも準備万端だ」
「うわ、いらねぇ。悲しくねぇし」
「…は、そりゃねぇだろ」
エルがいるからローはいらない。
強がりでもなく、負け惜しみでもなく、純粋に本心からそう思ったんだ。
ローへの想いは昇華されて、彼は仲間でしかなくて、恋人という俺が愛情を捧げる位置にはエルが陣取っているんだから。
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