燃え盛るルビーの恋
※ゼノside
「ダイヤ、見付かったか?」
だなんて、曲がり角の暗がりから姿を現したエルに、俺はとっさに嘘をついた。
ダイヤは俺が見付けたわけで、ローに渡してしまったわけで…、エルが持っているはずもないのにそう聞いたのは、ただ単に心をローからエルに移したいだけだった。
何でもいいからエルと話がしたい。
エルに集中して、…ローを忘れたかった。
いや、違う。忘却の彼方に放り投げたいわけじゃなくて、あれを過去として受け入れて、早く次に進みたいだけなんだ。
そんな俺の心を見透かしたようにエルが鼻で笑う。そこに皮肉こそ見当たらなかったが、僅かな揶揄の色が見て取れた。
「ダイヤは知らねぇな。…綺麗なお嬢さんなら向こうに歩いてったけど?」
それが誰かなんて聞くまでもない。
せっかく離れたかった話題なのにまた不意に出されて、苦笑いさえ浮かんできた。
だが、心は思ったよりもよほど穏やかで凪いでいる。片想い相手が奪われ、親友も去っていったのに、胸は苦しくなくて吸った潮風はとても爽やかで気持ちいい。
少し前までローがいなくなると思うとあんなに悲しかったのに、今となっては、
(まぁ、頑張れって思うだけで…)
引き留めようとは、もう思わない。
「…行っちまったな」
俺達の仲間が。
去っていったのは仲間だ。それは切ない。共に学生時代を過ごし、共に航海し、共に死線を潜り抜けた仲間が去った。
確かに悲しいし、苦しい。だが、それが彼が死に物狂いで選んだ道なら、俺が障害物となりたくもなかった。
俺はいつの間にかそれを受け入れた。
進む道が違っていたんだ、って。
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