21.
「おう。そん時までくたばんなよ」
「は、少尉殿、俺を誰だと思っている?」
「…海賊」
「ま、…まぁ、そうだが、」
乾いた笑いが出た。
憎まれ口を叩けるようになるまでは回復したようだ。それに、今のゼノの表情はとても清々しくて晴れやかだった。
「俺はこれでも昔は狼と呼ばれてて…」
「うわ、その台詞年寄りくせぇ」
「は、はぁ?半年前の話だ!」
「嘘ついてんじゃねぇよ」
ニヤリ、と彼は挑発的に笑ってみせた。
「海軍の狼、ローウェン・クラウドは本日をもって大佐として海軍に復職した。…てめぇなんか名もねぇ雑魚の海賊だ」
「…言ってくれるじゃないか」
で、とゼノが言った。
「優しくて強い俺は、雑魚の海賊になんて興味ねぇんだよ。大物しか狩らねぇの」
クイッ、と顎で逃げ道を指す。
間違っても上官に向かって行う仕草じゃなくて、まぁ、昔も俺とゼノは上官と部下という間柄でもなかったが、それでも本当に俺を上官だとは思っていないらしい。
(見逃すって素直に言えよ)
だが、言葉に甘えるのが賢明だ。
自称優しくて強い誰かに背を向けて歩きだそうとした。背後にいるのは海軍だが、背中から切りかかってくるような奴じゃない。
カツ、と歩き出した時だった。
「あと、」
その声に呼び止められた。
「女装似合ってんぜ」
「…頼むからそれには触れないでくれ」
パチ、とウィンクが飛ばされた。
その軽さがゼノらしかった。
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