19.
「それじゃあ仲間には恋人ができたし、俺は海軍から逃げなきゃならないし…」
「ん?」
「それにダイヤも無事に手に入れたし、俺はこれで立ち去るとしようか」
「あ!お前!はぁ?いつの間に!?」
手にしたダイヤを見せ付けた。
本当に綺麗な宝石だ。カラットの大きさはもちろん、透明度に惚れ惚れする。思いっきり見せ付けてから服の中に隠した。
「お前があたふたしている間に。理由もなく俺がキスしてやると思ったか?ん?」
「か、海賊め…」
そう言うゼノの声に敵意はなくて、声色だって先程より随分と柔らかい。
床に座り込んだまま奪い返そうとする様子がないあたり、俺が持ちかけた取り引きに応じるつもりのようだ。昔ならこれで話は終わりだが、今はもう少しからかって遊びたい。
もちろん、ダイヤはもらうが。
「海賊堕ちしたって知ったら海賊の奴ら驚くだろうな。反応が楽しみだな」
「はぁ!?名前使っていいって言っ…」
「交渉は決裂しただろ?お前が渡さなかったんだから。これは俺が奪ったのであって、条件なんてものはないんだよ」
「はぁあああぁぁああぁ!!??」
あぁ、ものすごく楽しい。
海軍をからかって遊びたがるリドの気持ちがよく分かった。これは本当に楽しい。
昔は真面目だったが、いつの間にかリドに感化されて似たもの同士になったらしい。俺もこの遊びが癖になってしまいそうだ。
だが、ゼノで遊ぶのは控えよう。
「冗談だ。交渉成立だよ」
「こんの野郎ォ…」
笑いが抑えられない。緩む口元のままに、ゼノに手を伸ばす。重ねられた手をしっかりと握って、引っ張って立たせる。
ゼノはまだ不満げに俺を睨みながら剣を収め、ポンポン、と軽く尻を叩いた。
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