18.
「まぁ、それに、」
俺は言葉を途切れさせた。
軽く捻れば手首はあっさりと開放され、手をゼノの頬に添えればゼノが固まる。
指で擽るように下唇をなぞりながら撫でれば、面白いほどに肩が跳ね上がった。
座り込んだゼノの前に膝をついて、両手で彼の顔を固定してしまえば後はゆっくりと顔を近付けるだけだった。
「え?は?ちょ、ロー、待ッ、」
あたふたと焦るのを見るのは楽しい。
ゆっくりと唇と唇を近付けて、瞼を閉じる。内心クスリと笑いながらも、俺は顔を近付けるのをやめなかった。
(女遊び男遊びをしまくった奴が…、まさかこうなるとは思わなかった…)
どうやら、恋をして大きく変わったのは俺だけじゃなかったらしい。
吐息がかかる距離。ゼノが緊張しているのが分かる。唇まであと僅かだが、もちろん実際にキスするつもりなんて到底ない。
だって、
「待て、無理だって、ロー!!」
こいつには好きな人がいるんだから。
直前で差し込まれた手袋をした手に、俺の唇は落ちていた。目を細めて見せて、からかいを目線に含ませてゼノを見れば、俺が言いたいことが分かってゼノが赤面する。
「ほら、お前にだって好きな人がいるんだから、俺が傍にいる必要もないだろ」
「お前なぁ…」
もう耳まで真っ赤だ。
「ロー、お前変わったな。昔は誰彼構わずにキスする奴じゃなかったのに」
「拒否されるって分かってたから。…お前も変わったな。あんなに遊び癖があったのに、恋人ができるとこんなに落ち着いて…」
「…どこでエルのことを知った?」
「教えない」
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