16.
「ローウェン…」
彼の声が震える。
力を失った手から、カラン、と剣が滑り落ちて冷たい音を立てて転がった。
「ロー…!!」
それは懐かしい愛称だった。
敵とは言っても、ふと零れたその愛称は妙にしっくり来て、懐かしくて、思わず目元を細めればゼノの涙の量が増えた。
手を拘束から抜け出させて指の腹でゼノの涙を拭っても、涙は止まるどころか増えるばかりで、嗚咽まで出てくる。
「泣くなよ、ゼノ」
嗚咽ばかりで返事はない。
ゼノの下から抜け出して、ナイフを鞘に収める。涙を拭っていた手は、いつの間にか強く掴まれていた。
それを振り払わずに、好きにさせる。贖罪には到底なりえないが、少しくらいは謝罪や慰めになれるだろうか。
「ロー、…俺は、っ、」
「あぁ、」
「お前に怒ってるわけじゃなくて…、…海賊なんかに仲間を取られたのが悔しくてっ…」
「…あぁ、」
「お前が悩んでたのも知ってるし…、苦しんでたのも…、だが、受け入れられなくて…!お前に謝らせたいわけじゃ…!!」
「…あぁ、」
「だから…!!」
あぁ、やっぱりゼノは優しい。
「だから、幸せになってほしいのに、…そうやって素直に送り出せなくて、…やっぱり悔しいんだよ!…あんな海賊に…!!」
悪かった、と謝るのは違うだろう。
だから、
「ありがとう」
ゼノが瞠目する。見開かれた目は綺麗で、また一筋の涙が頬を伝って落ちた。
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