14.
時折、俺は自分が非情だと思うことがある。
だって、ゼノは今にも泣き出しそうなのに、俺は申し訳なさと切なさこそ胸を占めるものの、戻るという選択肢がほんの一瞬でも胸をよぎることはなかったんだから。
「この、」
言葉に油断した一瞬だった。
「ッ、しまっ、」
バランスを崩してよろめいて、その隙に押し倒されて背中を強く打った。
痛みに顔を顰めた僅かな隙に馬乗りになられて、片手は手首を押さえつけられて、首のすぐ隣に剣を突きつけられた。
だが、次の言葉は剣より鋭かった。
「裏切り者…!!」
そうだ。そう言われても否定できない。
俺は全てを捨てた。捨てられた方の気持ちも考えずに、一方的に。残された仲間、乗組員、カインズの民と国。全て。
ギリ、と握り締められた手首が痛くて、だが、それ以上にゼノの潤んだ瞳が心に突き刺さる。それでも目は逸らさなかった。
「ゼノ、」
「黙れよ!!」
「聞いてくれ…」
できるだけゆっくりと、優しく、穏やかに呼びかける。まっすぐ目を見て。
「今となっては言い訳でしかないが、」
許してもらえるとは思わない。
ただ、彼が言うように俺にとって軍服と仲間が決して軽いものではなかった、と一番の親友に知ってほしかった。
「俺は本当にお前達が大事だった」
それは過去の話でしかないが、
「俺の全てだったんだ」
確かに俺は幸せな時間を過ごした。
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