13.
キン、キン、と金属同士がぶつかる。
切りかかっては受け止められて、払われてはまた体勢を立て直す。敵意の刃を躱して、対象を失ったナイフが空を切り裂く。
こんな場合、昔馴染みというのも厄介で、真剣で戦ったことこそないが、互いの戦い方を熟知しているから進展がない。
この次、どこに攻撃が来るのか。
どんな攻撃を得意としているのか。
それを体に叩き込むには充分すぎるほど長い時間を、俺達は共に過ごしたんだ。
「次席が俺に勝てると思ってるのか?」
「はっ、そう言う割には鈍ってるぜ。半年も剣に触らなかったんだろ、首席さんよぉ」
そう言う癖にゼノも本気じゃない。
この期に及んで俺が心変わりするのを期待しているのか、それとも彼自身まだ本当の意味で決心していないのか俺には分らなかったが、問うつもりもなかった。
シュッ、と耳元で薙いだ剣が起こした風圧。髪が靡いて、僅かに切れられた。
「俺が海軍から逃げ出して、怒ってるか?」
ずっとゼノに聞きたかった一言。
ずっと聞けなかった一言。
だが、ごく自然に、というよりはポロリと零れてしまった言葉が、刃物が混じり合う中ではっきりと響いた。
あれだけ聞けなかった言葉は、もしかしたらこれが最後だと思うと、すんなりと口から出てきた。出てきてしまった。
「ッ、」
ギリ、とゼノが奥歯を噛み締めた。
「怒ってねぇと思ってんのか?」
剣を握る手に力がこもった。ゼノの爪が白くなって、俺は言葉を失った。
「あれだけ民を守るって、海軍の誇りがってほざいてた奴が簡単に海賊に寝返りやがって…、俺が!…なんも思わねぇって!?」
「…そうだな、」
「この軍服が、海軍の仲間が、民が、…かつて大事にしてたもんをお前は捨てたんだ!!…んなに軽く捨てやがって…!!」
「ゼノ、悪かった」
「悪かった、だぁ?悪かったって本気で思うなら海賊なんかになんじゃねぇ!!」
血を吐くような叫びだった。
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