12.
大人しく渡してくれそうにない。
(力づくで奪ってやる…!)
悪いとは思う反面、奪ったところでどうせ交渉の材料にして海軍に返すのだと思うと、躊躇いや申し訳なさも半減する。
ナイフを鞘から抜いた。シュ、と鋭い刀身が鞘を滑る冷たい音がする。ゼノはそれを見て僅かに悲しそうに目を細めた。
その眼差しに胸がツンと痛くなる。
僅かに息が詰まったが、戦闘に慣れたこの体が動きを止めることはなかった。
ゼノも剣を引き抜く。俺のナイフよりもかなり長いそれが冷たく光を反射して、代理石の床に光の筋を落とした。
「…まさかお前相手に刀を抜くとはな」
ハッ、とゼノが鼻で笑う。
「…そうだな」
ゼノの言う通りだ。
最後にゼノと真剣で戦ったのはいつだっただろうか。もう記憶の海から探し出すこともできないし、そもそも、敵意を持って真剣で戦ったことすらないのかもしれない。
ゼノはいつだって仲間だったし、訓練もサバイバルゲームも模造刀だったんだ。
だから、まさかこんな日が来るとは…。
「だが、手加減しないぜ?」
「俺がするとでも?」
「思わねぇな」
キン、と交わった剣とナイフ。
手加減は互いに少しもなかった。
ギリギリ、と互いに強く押し合うことによって刀身がカタカタと震える。行き場を失った力が摩擦を起こして火花が弾けた。
すぐに後ろに引いてナイフを構え直した。ゼノもしっかりと構えたのが見えた。
どうしてだろうか。
十一年以上もの付き合いがあるのに、昔馴染みである筈の彼が、全く初対面の人間であるかのように見えてしまった。
それは俺と違って高潔な軍服を着ているからかもしれないし、ゼノが見たこともない鋭い目をしているからかもしれなかった。
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