11.
正直に言って、昔のよしみで応じてくれたらラッキーだ、としか思っていない。
だから、
「悪ぃな、断るぜ」
と言われた時も別に失望はしなかった。
ゼノの性格は昔から充分よく知っていたし、彼が今も変わらないからこそどこかでホッと安堵している俺がいた。
「海賊と取り引きしたくねぇんだよ」
「…言うと思った」
「だろ?」
だが、俺もこの他に手がないわけじゃない。
リドと一緒に行くなら、ダイヤを使って辞職しなくても海軍から逃げ切れる。だが、あった方が事がスムーズに進む。
俺は退役して、俺の名前が抑止力として残る。ダイヤは再び海軍の手に渡り、俺が復帰したと嘘を流せば海賊も騙される。
どちらにだって損はない。
だから、
「なら、…奪ってやるよ」
一気に間合いを詰めて、ゼノが持っているダイヤに向かって手を伸ばした。
一緒ゼノの目が驚いたように大きく見開かれる。だが、俺の手が届く直前にダイヤが遠ざかり、手は虚空を切っただけだった。
チッ、と思わず舌打ちをした。
「へぇ、海賊らしいやり方だな」
「このやり方、嫌いじゃないんだ」
「…お前、本当に変わっちまったんだな」
悪い、と心の中で呟いた。
もう引き返せない。だが、たとえ過去をやり直すチャンスが何度あったとしても、俺は同じ選択をして、同じ道を歩いていた。
そう言い切れるほどにはリドを愛して、そして、今のこの立場を気に入っていた。
ゼノがニヤリと笑う。
わざと俺に見せ付けるようにダイヤを持ち、窓から差し込む月の光に翳す。それは雪のように淡く溶けていきそうだった。
「奪えるもんなら奪ってみやがれ」
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