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- ナノ -


8.


「変わった、か。…そうだな」

「…あぁ、」

短く響いたゼノの声。

それは今まで聞き慣れた甘さと艶を含んだ声ではなく、地を這うように敵意を含んだピリピリとした低い声だった。

「お前は海賊になったよ」

「っ、」

そうだ、ゼノの言う通りだ。

ほんの少し前の俺なら女装をすることも、ましてや海軍の仲間を攻撃して意識を奪うこともありえなかっただろう。

それは俺も軍人だったからで、つまり、今の俺は軍との縁が完全に切れた。

今、ゼノの目の前に立っている俺は海軍じゃない。彼の上司でも、同期でも、昔馴染みでも、…仲間でもないんだ。

今の俺は、

「お前は敵だ、ローウェン」

敵である海賊だ。

「ローって呼ばないんだな」

「俺の仲間であるローは死んだ。人質を助けるために海賊船に残って、…死んだよ!」

あぁ、あの日のことは覚えている。

人質に取られた女性達を助けるために敵船に乗り込んで、薬をもられて、リドが血相を変えて助けに来てくれたあの日。

確かにあの日は俺が最後に軍服を着た日であり、最後に軍人だった日であり、そして、海軍中佐としてのローウェン・クラウドが船と一緒に深海に沈んだ日でもあった。

(…あの日が最後だった、)

海軍だったのは。

今の俺は海軍じゃない。海賊だ。そう躊躇いもなく胸を張って言いきることができた。

「で、どうするんだ?俺を捕まえて海軍にでも差し出すのか、ゼノ・エヴァンス少尉」

「っ、」

ゼノから返事はなかった。

だが、今にも刺し殺しそうな視線をしている割には、剣の柄を固く握っている手が一度だけ震えたのを俺は見逃さなかった。

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