5.
五人とは言っても、戦い始めれば実力の差は歴然としていて当たり前にリドが押す。
やはりというか、海軍相手でも無闇に殺さないセイレーンのやり方は昔のままで、抜身の剣で戦っているのに怪我をさせない。
キン、キン、と金属がぶつかる高い音。
月の光を反射した鋭い光が、乱れながら部屋に落ちては交差して互いを弾く。
(…リド、やっぱり強いな)
直接剣で戦ったことはなかった。
だが、決して弱くはないと予想していたし、実際戦う姿を見て俺が相手になりたいと思うほど心が高ぶってくる。
迷いのない太刀筋。真っ直ぐに相手を見据えた目。その目はぞっとするほど冷静で、意識を引き込まれてしまいそうだ。
ただ、美しかった。
そして、その美しくて頼りになる広い背中に守られる気持ちは少し擽ったくて、
(温かい…、)
こんな時だというのに頬が熱くなる。
幸いなことにリドは集中しているから俺を見ていなくて、だが、それでも恥ずかしくなって手で火照る顔を隠す。
ドス、という鈍い音がして鳩尾に剣の柄(つか)を強く叩き込まれた海軍が、ふらっと覚束無い足取りの後に床に沈む。外傷はないから、ただ気絶しているだけだ。
リドは絶対に海軍を俺の方に来させなかった。まぁ、海軍のターゲットはリドで、こちらに来るつもりもなかったかもしれないが。
剣が空気を切り裂き、滑る音。
ふとドアの方を見れば、五人がかりでも勝ち目がないと判断したらしい一人が、今まさに走りだそうとしているところだった。
「やばい!」
援軍を呼ばれるのは困るんだ。
だが、そいつが止まるわけもなくて、一瞬遅れてから追って俺が走り出した。
「おい、追うな!!」
「後で落ち合うぞ」
後ろで喚いているリドを無視して、部屋のドアから出て廊下を駆け出す。白い背中はそう遠くない場所を走っていた。
リドに落ち合う場所を言っていなかったが、簡単に会える予感がしたんだ。
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