2.
ダイヤは諦めようか。
だって、もう必要ないんだから。
海軍がセイレーンを追えなかったように、リドの元にいれば連れ戻されることはない。
ダイヤだってこんなに海軍がいて、ヘンゼルもアスティアーニ先生もいて、既に目処が立っているなら奪還するはずだろう。
だから、俺はリドと二人で、魔法が解ける鐘の音を聞くことなく抜け出す。
(…それもいいかもな、)
だが、
(もっとからかって遊びたい)
海軍と遊ぶスリルもたまらないし、そもそも悪いことをする楽しさを俺に教えたのはリド本人だ。文句は言えない。
(ダイヤを探すふりでもしておちょくるか。いい反応をするんだろうなぁ…)
そう考えると笑ってしまいそうだ。
顔を上げれば、切なそうに俺をじっと見詰める瞳と視線が絡まった。白手袋をした手に指を這わせて、優しく掴む。
手袋をしているのにほんのりと温かい体温が伝わってきて、離れたくないというようにリドから掴んできた。その手をゆっくり持ち上げて、目を閉じて擦り寄る。
何か言ってやろうとして、だが、俺は半開きにした口をまた閉じた。外から足音が聞こえたのだ。それも一人じゃなくて複数。
表情を引き締めたリドも気付いたらしい。
ドアは閉めている。だが、足音が響いては途絶えて、ドアを開く音と閉める音が繰り返される。相手は何かを探している。
(ダイヤを探しているのか?)
だとしたら海軍か?
目的が何であれ俺達には都合が悪くて、だが、ついにこの部屋のドアが開かれた。
入ってきたのは白い軍服を着た奴らで、俺の昔の部下や知り合いではなかったが、間違いなく海軍だった。五人。
部屋の中に人がいるのを見て目を丸くするあたり、奴らの目的は人探しじゃない。
(先生は本当に追ってこないのか)
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