11.
※リドside
約束、したんだから。
恋人は今日までだって。
魔法はじきに解かれ、消えていく。おとぎ話のような結末は来ないかもしれない。
柔らかい色合いの髪が、昔よりずっと短くなってしまったが艶やかさを失っていないその髪が、さらりと彼の首筋を滑る。
鋭いサファイアの瞳を見ていると泣きたくなる。昔のような敵意のある瞳じゃない。だが、芯の揺らがない強さは出会った頃からほんの少しも変わっていなかった。
だからこそ分かる。
ローは本気なのだ、と。
その意志の強さに惹かれた。そして、だからこそ彼が冗談を言わないと思った。
切なくて、寂しくて、苦しくて。月の光は掴もうにも指の間からすり抜けて、愛しい人ももうすぐで俺から離れていく。
みっともない姿は見せたくない。だが、
「…俺の、傍にいてくれ…ッ!」
心の声を叫ばずにはいられなかった。
「…どこにも行くんじゃねぇ…!」
約束は約束だ。だが、理性では分かっていても、感情がすんなりと納得できるほど俺はできた人間じゃなかった。
卑怯だとは思う。
ローを抱き締める。すがるようにすれば、優しいこいつはきっと追い討ちの言葉をかけない。だが、だからといって簡単に首を縦に振ってくれることもなかったが。
お前がいなくなったら、この世界はきっと色も温度も失ってしまうだろう。
それほど深く愛してしまった。
(…ロー、ローウェン、…俺の傍に)
この時、俺は知らなかった。
かつて生真面目だったこいつはとうにいなくなったことも、俺に抱き締められながら愉快そうな笑みを浮かべていたことも。
海軍の狼様はとっくに小悪魔な子猫になっていて、俺はこいつに遊ばれただけだった。
結局、俺達は似たもの同士だったって話だ。
ローは俺をからかおうと嘘をつき、俺はローを手に入れようと罠を張ったんだから。
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