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10.

※リドside

綺麗だった。

透き通るような儚い綺麗さだった。

部屋の中央に置かれた一脚の椅子。そこにあいつが座るだけで、その空間だけがこの世界から切り離されたようだった。

青白い月の光を受けて、海色のドレスが煌めく。光に同化して溶けそうなそれは、満月の夜になびく海面に見えた。

そこからすらりと伸びた長い脚。ガラスの靴が煌めく。脚が動かされる度にキラキラとした小さな光が瞬き、消える。

あのおとぎ話の結末はなんだったか。

ガラスの靴を残して彼女が消えたんだ。

結局、おとぎ話の中の人物は魔法が解けても最後は幸せになったが、自分達はどうなんだろう。十二時の鐘と共に恋人という魔法は解けて、…そして、

(もう戻ってこねぇんだろうな)

現実はおとぎ話とは違う。

容易く幸せな未来なんて来ない。

すがりたかった。どうか俺を置いていくなと、ずっと傍にいてくれと。

かつて彼を浚うと宣言したことがあった。

だが、一目惚れから愛情になって、彼をもっと深く理解するようになって、心を通い合わせて、身を焦がすほど必死に愛して、そして、今俺は分かったんだ。

(無理強いはしたくねぇんだよ…)

何も知らなかったなら、無理矢理手にすることができた。それが俺達の、海賊として当たり前のやり方だった。

だが、彼の覚悟を見て、目に宿る揺るぎない意思を見て、こうも思ってしまうんだ。

(俺の手を離れて自由に飛んでいきてぇってなら、応援してやるよ)

お前を捕らえようとする邪魔な鎖も枷も、この黒豹が噛みちぎってやろう。

それでお前が思い通りに生きられるなら、

(…いいぜ、手放してやる)

それが本気の、そして最後の愛情だった。

ズキズキと鋭い刃物で引き裂かれたように痛む胸は、しばらく治りそうもないが、お前が望む未来ならそれでもよかった。

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