7.
強引に唇を重ねられたのは。
奪うようなキスだった。
踊っていることも忘れてステップを無視して佇んで、掻き抱くように強く後頭部と腰を抱き寄せられて深い口付けとなる。
ホール中のどよめく声。それは耳に届いていたが、別に気にならなかった。
それくらいの激しいキス。
貪るような、それでいて引き止めるような僅かな寂しさと切なさを滲ませたキス。
時間にしてそう長くはなかった。だが、唇が離れた瞬間、泣きそうな彼の瞳は、永遠に離れたくないと改めて俺に自覚させるには充分ほどの威力を持っていたんだ。
「逃がしてたまるかよ…!!」
怯えるように震えた声。悔しそうな目。
だが、それはふっと柔らかくなって、諦めの滲んだ泣きそうなものとなった。
「だが、約束は約束だよな…」
嘘だよ。傍にいるから泣くな。
俺が折れてそう言いそうになった。
実際、言いかけていた。だが、言葉が音となって喉を震わせる直前、聞きなれた声が鼓膜を揺らした。アスティアーニ先生の声が。
「君は、…スウィフト君!」
ついに、
「バレたな」
「逃げるぞ」
リドと目を見合わせた。
逃げるしかない。俺は名前を呼ばれなかったから、バレたのはリドだけらしい。
幸いにも、ここで伴奏は終わりのようで、ダンスを終えて端に寄る人と踊ろうとホールの中心に移動する人が混じる。
その人の波に紛れれば、先生から逃げるのは簡単だった。先生は戦闘には向かない純指揮官タイプで、足は俺とリドの方が速い。
そして、後ろを振り返った途端、気のせいじゃ片付けられないほどバッチリと俺と先生の視線が絡まりあった。
大きく、限界まで見開かれていく目。それどころか口も半開きになっている。
(あ、これは完全にバレたな)
なのに、笑みが引っ込んでくれない。
イケないことをしたようで楽しいんだ。
先生は追いかけてこようとしたが、踊ろうと移動する人に行く手を阻まれたりぶつかったりして、ついには追ってこなかった。
アスティアーニ先生が軍を動かさなかったのは一般人に対する配慮だろうか。それとも、ダイヤの方が重要だったからだろうか。
…もしくは、俺もリドも彼の教え子で、ほんの少しの時間だったとはいえ、同じ白の軍服を着ていた仲間だったからだろうか。
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